社号 | 宮前霹靂神社 |
読み | みやさきかんとけ |
通称 | 産屋明神 等 |
旧呼称 | 雷神 等 |
鎮座地 | 奈良県五條市西久留野町 |
旧国郡 | 大和国宇智郡西久留野村 |
御祭神 | 宮前靂霹神 |
社格 | 式内社、旧村社 |
例祭 | 10月第3日曜日 |
宮前霹靂神社の概要
奈良県五條市西久留野町に鎮座する式内社です。
当社の創建・由緒は詳らかでありませんが、「霹靂(カミトケ/カントケ/ナルカミ/サクイカヅチ)」とは雷の意であり、自然神としての雷神を当地に祀ったのが当社であると考えられます。
宇智郡の式内社には当社の他にも雷神を祀ったと考えられる「火雷神社」(御山町に鎮座)があり、旧・宇智郡(現在の五條市北部)では雷神を信仰するのが盛んであったことが窺われます。
古来より雷、特に夏場の夕立に伴い激しく鳴り響く雷は稲の実りを促すものと考えられており、豊穣を司る神として雷神が祀られたことが考えられます。
金剛山地と紀伊山地に挟まれた当地では特に夏場に山地にぶつかった上昇気流によって積乱雲が発生しやすく、雷を伴うことも頻繁にあります。こうした風土によって当地で盛んに雷神が祀られたのかもしれません。
一方、社伝によれば「井上内親王」が当社に祈願して荒坂で御子を産んだと伝えられ、これに因み当社は「産屋明神」とも呼ばれ、安産の神として信仰されています。また一説に井上内親王が産んだ御子が雷神であったとも言われています。
『続日本紀』によれば、光仁天皇の皇后である井上内親王は讒言により御子の他戸親王と共に当地に流罪となり、幽閉先で他戸親王と共に薨去したとあります。
これ以降に天変地異が頻りに発生し、井上内親王らの祟りであるとして恐れられ、いわゆる御霊信仰の一環として京都の「上御霊神社」で祀られた他、配流先であり薨去の地である宇智郡においても「霊安寺」および「御霊神社」(霊安寺町に鎮座 / 霊安寺は現在は廃寺)で祀られました。
これ以来、宇智郡一帯ではこの御霊神社の信仰が非常に盛んになり、宇智郡内の各地で御霊神社が勧請され、既存の神社でも御霊神社の信仰の影響を受けるようになりました。
当社もその一つであり、元々は自然神としての雷神を祀っていたものの、井上内親王が激しい祟りにより雷に擬えられ、雷神と同一視されるようになった、或いは雷神を産んだと考えられるようになったことが推測されます。
霊安寺町の「御霊神社」に伝わる縁起『霊安寺御霊大名神略縁起』でも井上内親王は当地で出産し、それ以降に当地を「産屋ガ峯」と呼ぶようになったとあります。
ただ『続日本紀』を見る限りでは、井上内親王が当地に配流されたのは高齢になってからであり、当地への配流の途中で出産したとの記録も見えないため、井上内親王が雷神を出産したとするのは明らかに後世の創作です。
これは宇智郡内において井上内親王への信仰が極めて高まったために、あらゆる既存の神が井上内親王と習合した結果、多くの役割が井上内親王に付与されたものと見るべきでしょう。当社においてもこの流れの上にあったものと思われます。
上述の御山町の「火雷神社」でも当社と同様、本来は自然神としての雷神を祀っていたと考えられるものの、社伝では井上内親王の御子とされる雷神を祀ると伝えられています。
現在の御祭神は「宮前靂霹神」で、社名と同じ神名となっています。式内社の比定により自然神としての雷神に戻されたのでしょう。
とはいえ今でも安産の神としての信仰は行われているようです。
当社の例祭では神前に生姜酒を献じ、直会で飲む風習が今でも行われています。
また、かつては渡御から戻ると狼煙を上げ、これを合図に御山町の「火雷神社」の渡御が行われたと言われ、宇智郡内の雷神にまつわる二つの式内社の関係性が窺われます。
境内の様子
当社は金剛山地の南麓に舌状に伸びる「産屋峯」と呼ばれる丘陵の上に鎮座しています。集落から離れておりわかりにくい場所ですが、北側に隣接する「五條市5万人の森公園」から当社へ参拝することが可能です。
当社は丘陵上の森の中にあり、境内入口となる石段の途中に両部鳥居が東向きに建っています。
鳥居をくぐった様子。境内はそう広くありません。
石段上の左右に配置されている狛犬。砂岩製です。
石段を上って右側(北側)に手水舎が建っています。
石段の正面に社殿が東向きに並んでいます。
拝殿は桟瓦葺・平入入母屋造の割拝殿。比較的小さな建築です。
拝殿後方は瑞垣で囲われて銅板葺の一間社隅木入春日造の本殿が建っています。
本殿の右側(北側)に銅板葺の流見世棚造の境内社が鎮座しています。社名は不明ですが、手持ちの資料から恐らく「春日神社」でしょう。
本社拝殿前の右側(北側)に「桜木神社」が南向きに鎮座しています。
社殿は銅板葺の春日見世棚造。
由緒
案内板
宮前霹靂神社<通称>産屋明神
地図
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